会社を継がない娘への財産分与は どのようにしたらいいのでしょうか | 株式会社クロスリンク・アドバイザリー

ご相談事例

会社を継がない娘への財産分与は どのようにしたらいいのでしょうか

社長

ご相談内容

私の財産の大半は自社株で、あとは自宅と少しの金融資産しかありません。
子供は長男と長女の2名。長男を後継者に指名し、すでに役員として頑張ってくれています。
長女は、結婚して主婦業に専念しているので、自社株は会社を継ぐ長男に渡すつもりです。
しかし、そうなると、長男と長女が相続する財産のバランスが悪く、長女が文句を言わないのか心配です。
長男と長女は特別仲が悪いということもなさそうですが、現在は、あまり交流が無いようです。
長女の夫は飲食店を経営しており、今後、店舗展開も考えているようで、私の財産への期待もあるのかと思います。
今のままで、私が死んだら遺産相続でもめる可能性もあると思うのですが、どのような準備が必要でしょうか。

半田道

自社株は、株主総会の議決権という性質とは別に、社長の個人財産という側面もあるので、事業承継対策を考える場合には、この点にも留意する必要があります。

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弊社からのご提案

会社を継ぐ子供と継がない子供の相続分は公平にするのは難しい

自社株が7億円、自宅が1億円、金融資産が5,000万円で相続財産の合計は8億5,000万円で、これを法定相続分通り、長男、長女で2分の1ずつ相続するとすれば、各々の相続分は、4億2,500万円です。
仮に、長男が自社株を相続し、長女が自宅と金融資産を全て相続した場合、長女の相続する財産は、1億5,000万円であり、法定相続分の2分の1よりも少ないです。
確かに、法定相続分通りに相続をすると考えると、長女からみれば不公平な状況に対して、不満を述べることがあるかもしれません。
これは、世の中の相続争いでは多くみられるもので、裁判になっているケースもあります。
しかし、未上場企業の経営者の場合、財産の大半は自社株であることが多く、ご相談のように、会社を継ぐ子供と継がない子供に財産を均等に分けることは難しいものです。

自社株は会社の設備と同じと考える

自社株は個人財産ですので、相続税や贈与税の課税の対象になります。
したがって、遺産分割の問題に関連づけられることも事実ですが、後継者としては、自社株を金融資産として運用したり、現金化することはできません。
後継者が自社株を使うのは、株主総会での決議であり、言ってみれば「自社株は、個人が所有する事業用の財産」です。
これは会社の社屋と同じように考えていただくと理解がしやすいのではないでしょうか。
そのような財産を、個人の遺産分割の対象として協議されるのは、後継者にとって、納得がいかず、解決が難しいことです。

具体的な対策方法

この争いを防ぐためには、いくつかの方法があります。

①長女への説得

自社株は、「個人が所有する事業用の財産」ということを、社長がお元気なうちに、長女に説得することです。これで、揉めないのであれば、一番簡単な方法です。
ただ、社長が亡くなられて、長女の配偶者の意向で、遺産を多くもらいたいという考えが芽生えると、遺産分割はスムーズではありません。
ご相談のように、長男、長女があまり交流がないとすると、将来、相続争いが起きる可能性もあり、説得だけでは十分ではないかもしれません。

②遺言の作成

長女への説得では不十分な場合もありますので、遺産分割内容を、遺言で用意していただくのは、有効な方法です。
将来、長男、長女は遺言内容に従って、遺産分割をしてくれれば問題はありません。
ただし、長女が遺言内容に納得せず、長男に遺留分(※)の侵害請求を行うと、長男は相当額を長女に金銭で支払わなくてはなりません。
社長が遺言を書いても、遺留分を侵害する遺産分割内容の場合には、実現できない場合もあり、注意が必要です。
これは、裏を返せば、遺言に納得しない相続人がいると、スムーズに遺産分割は行われないということです。

(※)遺留分とは、一定の法定相続人に認められた最低限の遺産取得割合のことで、その割合は民法に定められています。

③自社株を遺留分の対象から除外する

これまでご説明した方法は、効果がありますが、それでも十分ではないと考えた場合には、社長の生前に法的な手続を行う方法があります。
中小企業経営承継円滑化法に「除外合意」という方法が定められています。
遺留分の計算の基礎となる財産から自社株を除外することを後継者と相続人(遺留分権者)で合意し、家庭裁判所の許可を受けるというものです。
この合意は、社長の生前にしていただく必要があります。
もちろん、長女のご納得が得られなければ、成立しないものですが、合意をしてもらう目的は会社の存続であることを、父親である社長から、きちんと説明し、そして、長女にとって遺産分割の財産は公平でなくても、金融資産など長女にメリットがある財産を受け取れるように、遺言を準備していただくと納得感が得られると考えられます。

④遺留分の放棄

遺留分の放棄とは、遺留分を有する相続人が家庭裁判所の許可を得て、被相続人の生存中に遺留分を放棄する手続のことです。
具体的には、長女が家庭裁判所に遺留分を放棄する申立てを行う必要がありますので、長女に遺留分放棄の意思がなければこの制度を使うことができません。
従って、上記①のように、社長が長女に説得を行うことが前提となります。また③に記載の通り、遺留分を放棄する長女には、金融資産など長女にメリットがある財産を受け取れるような遺言を準備することが大切です。
遺留分放棄の申立てが裁判所に認められると、相続発生後に長女が遺留分の行使をすることはできなくなり、長男は社長の希望通りに自社株を全て相続することができます。

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社長、長男、長女への説明

長男、長女は交流がない状況で、長女にとっては不利な遺産分割になる状況を考え、社長、長男、長女と一同に会して、弊社から説明を実施しました。

結果

長女は、自社株が長男の会社経営に必要なものであることを理解し、それが個人財産であるとしても自分にとっては価値のないものなので、もらうつもりはないし、遺留分の請求をするつもりはありませんとのコメントがありました。
そこで、自社株は長男、金融資産は2分の1ずつ、自宅は長女が相続するということになり、公正証書遺言を作成することになりました。
長女は必要であれば、除外合意の手続をしてもいいと言ったものの、長男は、そこまではしなくてもいいという意向を示し、この手続は見送りになりました。
長男と長女は最近交流がなかったものの、長女が長男に会社を守って欲しいという気持ちがあることをみんなで理解することができました。
事業承継は、社長個人の財産の分割も絡む問題ですので、この点も忘れずに親族で話し合うことが大切です。
このケースでは、将来の相続争いも懸念されましたが、社長がお元気なうちの話し合いだったこともあり、スムーズな結論に至りました。