事業承継対策=税務対策ではありません | 株式会社クロスリンク・アドバイザリー

コラム

2020/1/15

事業承継対策=税務対策ではありません

税金の問題は重要ですが、最優先課題ではありません

経営者が、事業承継の検討を開始する場合、自社株を後継者に渡す際の税金をイメージされて、事業承継対策=税務対策とお考えになることがあります。

これは、一般に事業承継対策の書籍やセミナーでは、自社株にかかる税金を減らすための株価対策を取り上げているケースが多いことも影響していると思います。

確かに、自社株を後継者に渡す場合、贈与税や相続税がかかり、税金が少ない方が後継者や会社にとって負担が少ないので、税務対策は、事業承継対策における検討事項のひとつです。

しかし、事業承継対策は、他にも検討すべきことが多く、税務対策は最優先の検討課題ではなく、また 会社が存続・発展するためには、税金を減らすだけでは不十分です。

最も重要なことは、経営者が誰であるかということ

ここで、会社の創業時と、事業承継時の状況を比較してみます。

創業時に必要なものは、会社の製品やサービス、顧客、役員・従業員、本社・営業所や工場のような設備など色々な要素がありますが、一番大切な要素は、それらの要素を活用し、経営の舵取りをする経営者であるということは、言うまでもありません。

それでは、事業承継時の状況を考えてみるとどうでしょうか。

事業承継の時期には、会社は製品やサービスを顧客に提供し、売上や利益を確保しています。役員・従業員も各々の役割を果たしており、会社の仕組みは出来上がっています。

しかし、後継者に経営能力がなければ、経営を維持することはできず、その仕組みはいずれ劣化してしまうでしょう。

つまり、事業承継対策で最も重要なことは、会社を存続・発展させることができる後継者を選定、育成することであるということです。

ですから、事業承継対策に着手するということは、株価対策などの税務対策を検討するよりも、まず、後継者を誰にするのかという検討から始めていただく必要があります。

現社長のご子息だからといって、経営能力が備わっているわけではないので、早期に後継者を選定し、育成しながら、経営者としての適性を判断し、もしも適性がないと判断した場合には、他の候補者を探さなくてはならず、時間がかかることもご理解いただきたいと思います。

尚、後継者が経営手腕を発揮するためには、ひとりの力では難しく、後継者を支える取締役や株主の存在も重要で、これらの構成員を検討することも事業承継対策において重要です。
(この点につきましては、別のコラムで、ご説明します)

税務対策は不要なのか

それでは、事業承継対策において、税務対策は全く不要なのかということについてですが、自社株を渡す際の税金の負担が小さい方法を検討することは、経営上、意義のあることです。

しかし、税務対策をすることによって、あらたなリスクが発生することも考えなくてはなりません。

例えば株価対策によって、ある会社の株価総額10億円が8億円に減少することは、効果があると言えるかも知れませんが、そのために不動産を購入したり、リース契約をするなど、あらたな投資が必要になることもあります。

不動産の購入による株価対策は、一般に大きな効果が得られますが、不動産は長期保有することが多いため、会社には長期的に価額下落のリスクが存在することになります。

事業に必要な不動産を購入するのであればいいのですが、株価対策だけのために購入した不動産が値下がりした場合には、本末転倒です。

つまり、対策の方法が会社の事業方針に合致しているのか、また、対策のメリットだけでなく、デメリットも詳細に検証することが必要です。

尚、平成29年の税制改正で、自社株の算定方法が変更になりましたので、一般に、利益を減少させる方法での株価対策は、大きな効果が得られなくなりました。

積極的に株価対策を行うよりも、特別損失の計上や退職金の支給など、会社を経営している上で必然的に発生する手続の結果で株価が下がった時や、同業他社の株価が下がった結果、自社の株価が下がった時に自社株を渡すことなどを検討した方が、経営上のリスクの増加は避けられるでしょう。

まとめ

・後継者の選定と育成が、事業承継対策で検討すべき最優先課題
・税務対策は、事業 目的との合致と、メリット・デメリットの詳細な検討が
 必要

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