納税猶予制度は使えないのか④ | 株式会社クロスリンク・アドバイザリー

コラム

2022/6/3

納税猶予制度は使えないのか④

納税猶予が打ち切られたら大変なことになる?!

自社株を後継者に渡す際の贈与税・相続税の納税猶予について、「猶予を受けても、打ち切られたら税金を納めなくてはならないので大変なことになる」と言って、この制度の適用を受けることは好ましくないと主張される専門家を見かけます。

もちろん、納税が猶予され、そして最終的には免除されることを目指して、この制度の適用を受けるのですから、猶予が打ち切られることは、経営者にとって、好ましいことではありません。

そこで、今回は納税猶予制度の一般措置において、納税猶予制度の適用を受け続けるための要件を確認します

納税猶予制度の適用を受け続けるための要件

【納税猶予制度の申告期限後5年間】
<相続税・贈与税共通要件>

・後継者が会社の代表者であること
・雇用の8割以上を5年間平均で維持すること
・後継者と同族関係者と合わせて総議決権数の50%超を保有していること
・後継者が同族関係者で筆頭株主であること
・上場会社、風俗営業会社に該当しないこと
・猶予対象株式を全株継続保有していること
・資産保有型会社等に該当しないこと

納税猶予制度を受けてから5年間、上記の要件を満たせない場合には、納税猶予が打ち切られ、猶予税額の全額を納付しなくてはなりません。
全額納付と言われると、一瞬、どきっとされると思いますが、もう一度、要件をご確認ください。

これらは、納税猶予制度の適用を受ける段階では満たしていたものです。
ですから、その後5年間で、要件を満たせなくなるという可能性は低いのではないでしょうか。
ただ、その中で、「雇用の8割以上を5年間平均で維持すること」という要件については、ハードルが高いと感じる経営者はいるようです。

その点を考慮して、納税猶予制度の特例措置では、「満たせない理由を記載した書類」を都道府県に提出することで、打ち切りにならない場合もあり、要件の緩和がなされています。
もちろん、一般措置では、その緩和はなされていないので、なんとなく不安視される経営者がいるかもしれません。
ここで、一度じっくりと検討をしていただきたいと思います。

この要件で重要なことは、雇用の8割維持は5年間平均であるということです。
例えば、従業員100名の企業の場合、維持しなくてはならない8割というのは、80名です。
納税猶予制度の適用を受けた翌年に、大量に退職者がいたり、解雇したりする可能性は低いでしょう。
そこで、1年目、100名、2年目90名、3年目80名、4年目70名、5年目60名の場合の5年間平均を考えてみると、ちょうど平均80名で、8割維持ということになります。

この従業員数をご覧になってどのようにお感じになられるでしょうか。
従業員100名の企業が、60名になるという状況は尋常ではありません。
しかし、5年後にそれほどの大規模なリストラを行ったとしても、まだ8割の維持が可能ということです。

この数値をどのように捉えるのかということで、納税猶予制度の要件を満たし続けるハードルが高いのか低いのかという判断が異なると思いますが、上記数値をよくご認識されれば、ハードルが高いとお感じの企業は多くないのではないかと考えます。

いずれにしましても、納税猶予制度の適用を受けるためには、しっかりとした事業計画が必要ですので、今後5年間の見通しをしっかりとシミュレーションしていただきたいと思います。

【納税猶予制度の申告期限後5年経過後

・猶予対象株式を継続保有していること
・資産保有型会社等に該当しないこと

上記のうち、猶予対象株式を継続保有せずに譲渡した場合は、譲渡した株式の割合分だけ納税することになり、資産保有型会社に該当した場合には、猶予税額の全額を納付しなくてはなりません。

【要件維持のハードルについて検討】

◆猶予対象株式の継続保有の要件
猶予対象株式を先代から承継して、継続保有しないという状況はあまり想定ができません。
未上場株式ですので、もちろん市場での売却はできませんし、後継者が所有する自社株だけを買う人もいないでしょう。
考えられる状況は、M&Aで会社を売却する場合くらいだと思います。

それでは、その場合に、納税猶予が打ち切られることは大変なことなのでしょうか。
一般にM&Aの場合、将来の利益も見込んで企業価値算定が行われるため、相続税を計算する時に算定する株価よりも、高くなることが多いものです。
つまり、多額のキャッシュを受け取るのですから、猶予税額を納税できないと不安になる必要はないと考えられます。

◆資産保有型会社の要件
納税猶予制度の適用を受けた事業会社が、当該事業を継続的に行っている場合に、資産保有型会社になるということは通常ありません。
もし、資産保有型会社になる場合には、事業資産を売却して現金や上場株式を購入するなど、大きなアクションを起こした時だけです。

したがって、この要件を満たせないという状況はあまり想定されませんし、逆に要件を満たせなくなった場合には、もはや事業を継続していないので、猶予の打ち切りは止むを得ないと考えるべきでしょう。

◆納税猶予制度が打ち切りになった場合、本当に大変なのか?

さて、これまで、納税猶予制度の適用を受け続ける要件のハードルは決して高くないとご説明しました。
ただ、それはあくまでも、弊社の考え方であり、要件を維持するハードルが高いとお考えの経営者もいらっしゃるでしょう。
では、仮に納税猶予制度が打ち切りになったら、大変だから、やめた方がいいというのは本当に正しい考え方なのでしょうか。

相続税の納税猶予制度の適用を受けない場合(A)、と受けた場合(B)で考えてみましょう。

A.納税猶予制度の適用を受けない場合、相続税を納税することになります。
B.納税猶予制度の適用を受けて、猶予を打ち切られた場合、猶予されていた相続税を納税することになります。


つまり、制度の適用を受けない時も、適用を受けて猶予を打ち切られた時も、後継者が行うことは、相続税を納税することです。
したがって、納税猶予制度を受けたことによって、大きな被害が発生するということではありません。
(厳密に言うと、猶予が打ち切られた場合には、利子税がかかりますが、利率は低いので検討から除外しています)

まとめ

これまで、4回のコラムで、納税猶予制度の適用を検討しても良いのではないかという前提で、ご説明をいたしました。
会社ごとに、状況は異なりますので、適用を受けない方が良い場合もあると思いますが、検討もせずに、専門家が言うからやめておこうというのは、せっかくのチャンスを逃すことになります。

自社株にかかる相続税の負担は、後継者個人が相続財産から納税するだけでは済まずに、金庫株の実行で、納税資金を捻出するなど、会社の資金も含めて対応することになり、その金額によっては、借入を行うなど、会社の資金繰に影響することがあります。

そのような影響を回避するために、国が中小企業に対して、せっかく準備した制度ですから、検討を行わずに、「猶予が打ち切られたら大変だからやめておこう」ということでは、経営者としては状況把握が不十分であると言えます。

最終的に適用を受けるか、受けないのかという結論はわかりませんが、まず、一度、ご検討されることをお勧めします。

尚、会社の顧問税理士さんが、納税猶予制度について詳しくない場合もあります。
その場合には、認定経営革新等支援機関である税理士さんにご相談されることをお勧めします。

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▼納税猶予制度について知識を深めたい方にお勧めです

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