生前贈与だけでは、自社株の承継は完了しません | 株式会社クロスリンク・アドバイザリー

コラム

2020/12/25

生前贈与だけでは、自社株の承継は完了しません

自社株の贈与は、経営者が会社を託すと決めた後継者に、確実に渡す方法です。
経営者のみなさまは、自社株を後継者に渡せば、自社株の承継は完了したとお考えになる場合が多いものです。
しかし、贈与をしたとしても、個人の遺産分割としては完了しておらず、問題は残っているのです。

贈与した財産も相続財産に含まれる

自社株を贈与した後、経営者が亡くなった際の相続においては、この贈与した自社株も遺産分割の対象になります。

なぜそうなるのかというと、「特別受益」という考え方があるからです。
「特別受益」とは、遺産分割の際に存在する経営者(被相続人)の財産以外に、相続人がすでに経営者(被相続人)から贈与等によって受けた利益のことです。
この特別受益の範囲は、民法に規定されていて、自社株もそれに含まれるとされています。
したがって、自社株を相続財産に加えて、遺産分割をしなければなりません。

簡単に申し上げると、「贈与でもらった株も相続財産に含めて、みんなで公平に遺産分割しましょうね。」ということです。

これによって、生前に自社株という多額の財産を取得した後継者と、それ以外の相続人との間で公平な遺産分割が行われるという考え方です。
このように、自社株を後継者に贈与しても、それで完了ではなく、相続人が遺産分割で争う可能性があるということなのです。

遺留分の侵害になる可能性

一般に、未上場企業の経営者の財産の大半は、自社株であることが多く、その場合には、後継者は他の相続人よりも多くの財産を取得することになり、相続人間で財産の取得額が、不公平な状況になります。
もちろん、遺産分割内容が不公平であっても、相続人同士が納得していれば、問題はありません。
しかし、納得のいかない相続人は、財産を多く相続した後継者に対して、不足分の請求をすることがあります。

その不足分の根拠となるのが、「遺留分」という考え方です。
民法では、相続人に、相続財産のうち一定部分を請求できる権利を定めています。この権利を遺留分権といい、遺留分の侵害請求をされた相続人は、これを金銭で支払う必要があります。
簡単に申し上げると、経営者が「全財産を後継者に贈与してしまったとしても、他の相続人は一定の財産を受け取れる権利がある」ということです。

対策方法

1.相続人への説明
親族間での遺産分割に関する争いは、残念ながら少なくありません。
そのようなことにならないように、経営者は後継者のスムーズな経営のために自社株を生前贈与するのだという意味を相続人全員に説明して、納得してもらうことが大切です。

前述の通り、一般に経営者の財産は自社株が大半であることが多いので、後継者とそれ以外の相続人の間で、公平な遺産分割をすることは難しいものです。
例えば、自社株を個人の相続財産と考えずに、自社株以外の財産を公平に分割することも有効な方法です。

2.遺留分相当額の準備
上記1で相続人が納得したとしても、実際に争いが発生するのは、経営者が亡くなった後ですので、その時に争いが起きないとは言い切れません。
そこで、あらかじめ遺留分相当額の財産を準備しておくことが有効です。
役員退職金や自社株を一部譲渡しておくなど、財産に占める金融資産を増やしておくとスムーズです。

尚、この特別受益については、相続開始前10年以内のものに限定されています。
以前は、過去の全ての期間に贈与されたものでも、遺留分の対象になっていましたが、2018年の民法の改正で内容が変更になりました。

後継者にとっては、プラスになる改正ではありますが、経営者から自社株を贈与されて10年経過するというのは、かなり計画的に自社株の承継を実施した場合ですので、簡単ではありません。
重要なことは、遺産分割の内容について相続人全員に納得してもらっておくことです。

まとめ

・自社株を渡す方法の検討をする際に、個人の遺産分割対策についても検討
 することが必要
・家族が揉めないように、納得感のある説明を行っておくことや遺留分相当
 額の準備が有効
・親族が円満なことが、事業承継対策の基本

■事業承継対策における遺留分について、詳しくお知りになりたい方は、こちらがお勧めです。

合わせて読みたい