子供の気持ちがわからず、後継者として指名することを躊躇しているのですが

ご相談内容
今年、創業110周年を迎えた同族会社の社長です。
創業者一族で、代々、会社を経営し、一族で会社を守ってきました。
後継者候補は、現在、他社に勤務している長男です。長男はその会社で、13年間勤務し、役職にも就いて活躍しているようです。
子供は長男だけなので、将来は継いでくれるのではないかと漠然と期待していますが、そのことについて具体的な話をしたことは、まだありません。
事業承継対策のことは、色々と研究していますが、長男の気持ちがわからず、後継者として指名することを躊躇しているため、対策の検討が進みません。

ご説明
社長のご長男がどのように考えているのかということは、直接お話しいただかなくてはわかりませんが、父親が同族会社の社長の子供は、事業承継について一般的に、どのように考えることが多いのかということをご説明します。
社長の子供は親が考えている以上に、後継者になる自覚がある
多くの同族会社の社長が、子供に経営をバトンタッチしたいと思いながらも、子供には子供の人生があるという配慮から、子供の気持ちを確認できず、その結果、後継者を指名するタイミングがわからないとお感じのことが多いものです。
しかし、そんなご心配をいただかなくても、創業110年の会社の社長の長男として生まれたのであれば、会社を継いで欲しいという親からの期待を感じていないはずはありません。
ただ、長男からすれば、事業承継の話をすることは、親に会社を辞めてくださいと話をするようなことでもあり、とても切り出しにくいものなのです。
長男から事業承継について質問されることはないと考えて、社長から話を切り出すことが必要です。
後継者指名が遅れると、どうなるか
社長のお気持ちとしては、ご長男に断られるのは怖いという気持ちもわかりますが、断られた場合には、他の後継者候補を探さなくてはなりません。
ズルズルと話をしないまま、社長に万が一のことがあった場合、ご長男は突然、会社の後継者となることも考えられますが、そうなった場合、何の準備もない状態での社長就任となり、会社の混乱が予想されます。
また、ご長男は、他社での勤務が長くなると、その会社で活躍した実績や責任が増え、勤務先を退職して後継者として入社することは大変になります。
さらに、若いうちに後継者として修行するのであれば、失敗をすることは恥ずかしくないかもしれませんが、年齢が上になれば、なかなか格好がつかなくなり、後継者としての修行も簡単ではなくなります。
後継者指名のタイミング
後継者が他社で勤務することは、後継者の修行としては有効です。
上場企業等であれば、定期的な人事異動によって、様々な分野の業務経験を積み、人脈を形成することができるでしょう。
従って、入社3年程度では、多くのことを得られないので、6年~10年程度で、後継者として入社してもらうと、それまで得た業務経験と人脈などを後継者として生かすことができると考えられます。
尚、10年後に入社するとしても、10年後に話をするのではなく、「10年後に入社する前提で」それよりも前に話をしておくと、後継者も心の準備ができて、人生設計もしやすくなります。
【社長、後継者、弊社
3者のディスカッション】

社長は、長男と1対1で話をするのは、気持ちの上でハードルが高いということで、弊社を交えた3者でディスカッションを行いました。 長男としては、会社は110年も続いてきた「家業」であるし、自分が会社を守っていく責任があり、会社を継ぐ可能性は考えていたものの、仕事を楽しんでいる父親を見ると、事業承継の話をするのは残酷だと感じたり、また、自分自身も会社で責任のある仕事を任されているので、いつ話を切り出せばいいのかわからない状況にありました。
そして、父親から、事業承継の話がないので、自分は後継者として、期待されていないのかもしれないと思っていたそうですが、父親から後継者として指名がなかったとしても、子供は自分しかいないので、経営や自社株をどうするのかという問題を避けて通ることはできないため、いつかは、父である社長と話をする必要は感じつつ、問題を先送りにしていたということです。
【結 果】
3者の面談を行い、社長もご長男も、最初は緊張されていましたが、社長がご長男を後継者として指名されたことにより、ご長男は、父親に期待されていると実感でき、経営への意欲を見せたと同時に、自分自身の将来計画が描けるので、ほっとされたご様子でした。
ただ、現在の勤務先で、1年がかりのプロジェクトを任されており、今日、明日に辞めることはできないので、今後、勤務先との調整を図っていくことになりました。
社長は長年、この問題をどうしようかと、おひとりで悩んでこられましたが、ご長男が後継者として入社してくれることが決まり、とても安心されたご様子でした。
事業承継の話をするのは親子でもなかなかし難いことですが、同族会社の場合にはこれを避けて通ることはできませんので、早期の確認ができて、良いかたちでの事業承継の準備がスタートしました。