親族ではない役員に会社を継がせたいのですが、どうしたらいいですか

ご相談内容
私の長男は、中学校の教師であり、会社を継ぐ意思がいないので、M&Aを考えましたが、経営方針が新しい経営者によって大きく変化することは社員にとって良いのかどうかわからず、できれば、今の社風を維持してくれるように、親族ではない専務取締役を後継者に指名しようと考えています。
専務は、長年、私の下で頑張ってくれていて、私の想いを受け継いでくれるのではないかと思っていますが、まだ具体的な話をしたことがありません。
親族ではない役員を後継者に指名する場合のポイントを教えてください。

ご説明
最近では社外の第三者が後継者になるケースも見られるようになりましたが、未上場企業の場合にはまだまだ一般的ではありませんので、社内の親族以外の役員を後継者として選択する場合の検討事項についてご説明いたします。
コンサルティングのポイント
① 役員がナンバー2として能力があっても、社長としての適性があるかどうかわからない。
専務取締役は、役員の代表格として活躍されている方が多いので、社長としても「専務は会社のことをよく知っているので、後継者として会社を任せてもいいのではないか」 と大きな期待を寄せていることがあるものです。
しかし、社長に最も必要な能力は、決断力です。ナンバー2は決断した経験が多いわけではなく、それよりも社長が決断したことを実行する能力に長けている方と考えるべきです。つまり専務がナンバー2として優秀でも、社長としての能力があるかどうかはわからないということです。
➁ 親族以外の役員は、一般的に社長になる事は考えていないことが多いため、意思確認は早急に行う。
そもそも親族以外の役員は、役員のまま会社人生を終えることを想定しており、社長として会社を発展させ、社員の生活を守るということの重圧に耐えられる人は多くないでしょう。
最近では、社長が銀行借入の保証人になることは減ったとは言え、会社が多額の借入をしていて、自分がその社長として間接的に責任を負っていると考える事はサラリーマンとしては恐怖でしかありません。
親族以外の役員は社長の親族のように相続で財産を取得することがなく、資産背景がないのに、社長としての責任を負うことを喜んで受け入れるわけではありません。
それでも親族以外の役員が後継者になるためには、社長になるための相当な覚悟があることが前提となります。
親族以外の役員を後継者にしようとしている社長は、「後継者は専務にするから、事業承継対策の問題は無い」と言いながら、専務の意思確認ができてないことが多いものです。
親族以外の役員が社長になるためには、大きな覚悟が必要な事は社長もよく理解しているので、意思確認をすることをためらい、また役員に断られた場合、次の手がなくなるので、その不安から、なかなか進められないのだと考えられます。
しかし、断られたら次の後継者候補の検討に進まなくてはならないので、役員の意思確認は早急に行わなければなりません。
③ 親族以外の役員が自社株承継することは資金負担の面で難しい。
事業承継対策が必要な会社は一般的に株価が高いので、サラリーマンである親族以外の役員が自社株を承継する事は、その資金負担の面で難しいものです。
自社株の取得に関する資金は役員の自己資金では対応できず、個人での多額の借り入れも現実的には難しいと考えられ、法人の自己資金もしくは借入で対応する場合には実現可能ですが、役員が借入に対する責任を負うことには変わりなく、その方法を受け入れないこともあります。
そうなると、現社長から親族が自社株を承継し、親族以外の役員が経営をすることになり、これは、いわゆる「所有と経営の分離」の状態になります。
その場合、株主総会での決定権は会社と関係のない親族が握ることになり、社長としては常に親族にお伺いを立てる必要が生じ、これも大きなハードルになります。
④ 社長の子供が後継者でない場合には、社員が事業承継対策の状況について不安に思っていることがある。
親族以外の社員は、社長の事業承継の検討状況を知ることができませんが、自分が勤務している会社の事業承継はどうなるのかということに関心を持っていることが多く、特に社長の子供が後継者でない場合には強い関心と不安を抱いています。
社員にとって会社は、自分の生活を支える給料をもたらす大切な存在であり、またそれを牽引する社長が誰になるのかという事は重大なことだからです。
事業承継の結果によって、自分の今後の人生は大きく左右されることになるので、それは当然と言えるでしょう。
同族会社で社長の子供がいれば、子供が会社を継ぐことがある程度想定されますが、子供がいない場合には、事業承継がうまくいくのかどうか社員は不安に思っているものです。
事業承継対策を考える場合、社長のリタイアに目が向きますが、事業承継の対策状況を気にしている社員の気持ちについても頭に入れておくことが大切です。
【結 果】
弊社からのご説明の結果、社長は、確かに後継者に断られたら困るという気持ちが強くて、後継者指名をためらっていたことを自覚されたと同時に、社員も事業承継の動向に不安を感じていることを理解され、早速、専務とのお話をスタートされました。
専務は大変驚かれ、自分には荷が重いと発言されたそうですが、社長との対話により、社長の会社に対する想いも深く理解され、後継者になる覚悟をされたとのことです。
自社株については、その一部を配当還元価額で後継者や役員に譲渡し、残りは社長の長男が相続で取得する予定です。