納税猶予制度は使えないのか?③ | 株式会社クロスリンク・アドバイザリー

コラム

2022/5/26

納税猶予制度は使えないのか?③

納税猶予制度の適用を受けるための要件が厳しい?

社長が後継者に自社株を渡す際、「納税猶予制度の適用を受ける要件を満たすのが大変だからやめておきましょう」という専門家を見かけます。

確かに、納税猶予制度の適用を受けるためには、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」に基づき、さまざまな要件を満たし、「都道府県知事の認定」を受ける必要があります。

そして、納税猶予制度を受ける要件は、納税猶予制度の適用を受ける段階猶予期間中によってそれぞれ異なります。
ここまで読まれると、なんだか大変そうだから、納税猶予制度はやめておこうと感じてしまう方もいらっしゃるかもしれません。

今回のコラムでは、納税猶予制度の要件を確認して、それを満たすのが本当に大変なのかどうかをみてみましょう。


納税猶予制度の適用を受ける段階で充足しなくてはならない要件

納税猶予制度の適用を受ける段階では、下記3つの項目の要件を満たさなくてはなりません。

■対象会社の要件
■後継者の要件
■先代経営者の要件

■対象会社の要件
<相続税の納税猶予・贈与税の納税猶予 共通要件>
➀中小企業者であること
 中小企業者の定義については、中小企業庁の資料をご参照

②上場会社・風俗営業会社でないこと
③従業員が1人以上であること
④資産保有型会社等に該当しないこと(一定の条件を満たすものを除く)

さて、まず対象となる会社の要件をご覧になって、いかがでしょうか。
このコラムをお読みの方の多くは、問題なく対象会社の要件には該当されるのではないでしょうか。
ただ、複数の関連会社を経営されている場合には、その会社の一部が、④の資産保有型会社に該当している場合もありますので、チェックする必要があります。

資産保有型会社とは、いわゆる資産管理会社をイメージしてください。
尚、詳細については、事業承継がゼロからわかる本(P.281)をご参照ください。

■先代経営者の要件
<相続税の納税猶予・贈与税の納税猶予 共通要件>
➀会社の経営者であったこと
②相続開始の直前または贈与開始の直前で,先代経営者と同族関係者で、総議決権数の50%超の議決権数を保有し,かつ,後継者を除いた同族関係者の中で筆頭株主であったこと

<贈与税の納税猶予 要件>
➀贈与時に会社の代表権を有していないこと

さて、先代経営者、つまり、これから自社株を渡す社長の要件についてはいかがでしょうか。
②の株主構成の要件は、少しややこしい表現でわかりにくいと思いますが、同族会社の場合には、同族関係者が自社株の50%超を保有していることが多いので、あとは、先代経営者が同族内で筆頭株主であることを満たせば良いということです。
これも、同族会社の場合には、それほどハードルは高くないでしょう。


■後継者の要件
<相続税の納税猶予・贈与税の納税猶予 共通要件>
➀相続開始時または贈与時において、後継者と同族関係者で、総議決権数の50%超を保有し、かつ、同族関係者の中で筆頭株主であること

<相続税の納税猶予のみの要件>
・相続開始の直前において役員であり,相続開始の翌日から5か月後に会社の代表権を有していること
 ただし、先代経営者が60歳未満で死亡した場合を除く

<贈与税の納税猶予のみの要件>
・贈与時に18歳以上,かつ贈与の直前おいて,役員就任から3年以上経過しており,都道府県知事の認定時までに代表者であること

◆◆◆ ◆◆◆ 

さて、後継者の要件については、相続税の猶予、贈与税の猶予に共通なものと、各々のみに適用される要件があります。
後継者の要件にある①の株主構成については、先代経営者の要件の裏返しなので、先代経営者の要件を満たせば、必然的に満たされるために、問題がないと思われます。

相続税の納税猶予の要件として場合、相続発生後に、後継者が社長に就任する期限が5か月後と定められていますが、同族会社の場合は、親族が承継することが多いので、期間の問題はあまりないでしょう。

尚、贈与税の納税猶予の場合には、後継者が役員就任から3年以上経過している必要がありますので、後継者の育成計画をきちんと実行しておくことが求められます。

以上が納税猶予を受けるための要件でした。
いかがでしょうか?同族会社で、親から子、甥、姪などの親族に会社をバトンタッチするのであれば、それほどハードルが高くないといえるのではないでしょうか。


納税猶予を受け続けることの主な要件

さて、前述の要件を満たし、納税猶予制度の適用を受けた場合、その後、自動的に猶予が継続し、最後は免除されるというわけではありません。
納税猶予期間中も,一定の要件を満たせなかった場合には,納税猶予額が打ち切られます
そこで、次は、納税猶予を続けるための主な要件をみてみましょう。これは、納税猶予制度の申告期限後5年間と5年経過後で、要件が異なります。

【納税猶予を続けるための主な要件】
<相続税の納税猶予・贈与税の納税猶予共通の要件>
《申告期限後5年間の要件》
 ⇨満たせない場合には,猶予税額の全額納付

①後継者が会社の代表者であること
②雇用の8割以上を5年間平均で維持すること
③後継者と同族関係者と合わせて、総議決権数の50%超を保有しかつ、同族関係者の中で筆頭株主であること
④上場会社,風俗営業会社に該当しないこと
⑤猶予対象株式を継続保有すること
⑥資産管理会社に該当しないこと

《申告期限5年経過後の要件》

①猶予対象株式を継続保有していること  
 ⇨満たせない場合には,譲渡した株式の割合分だけ納付

②資産管理会社に該当しないこと     
 ⇨満たせない場合は猶予税額の全額納付

基本的には、認定を受けた条件を継続すればいいということですが、雇用の8割以上を5年間維持することは,会社の業績次第でもあり、リストラを実施しなくてはならないような状況の場合には、要件を満たすことができなくなることもあるでしょう。
後継者にバトンタッチした後の5年間のことですので、あらかじめ事業計画を立てて、自社株を渡すことがが大切です。

まとめ

さて、今回は、納税猶予制度の適用を受けるための要件を簡単にご説明しました。
少しわかりにくいイメージがあるかもしれませんが、実際に確認してみると、それほど難しい要件ではないことがおわかりいただけると思います。

尚、税理士さんが、納税猶予制度の適用を受けるための手続をされることになりますが、通達の確認、書類作成も含めて、事務手続は大変な部分があります。
つまり、税理士さんの手続は大変なのですが、社長にとっては、要件を満たすことについては、それほハードルは高くないということをご確認いただければと思います。

次回は、納税の免除と打ち切り事由を確認します。


納税猶予制度について、さらにわかりやすい解説をご希望の方には、「事業承継がゼロからわかる本」がおススメです。図解入りで解説しております。

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