持株会社活用のデメリット③ | 株式会社クロスリンク・アドバイザリー

コラム

2021/1/22

持株会社活用のデメリット③

今回も、後継者の出資により会社を設立して、経営者がその会社に自社株を譲渡するケースのデメリットについてご説明します。

持株会社が資金調達することは難しい

後継者が出資した会社は、事業も資産もありません。従って、その会社が社長から自社株を買い取るためには、借入をするしかありません。
借入をするためには、返済原資が必要ですが、事業のない会社が返済できるわけではありません。

ですから、持株会社は、事業会社本体(事業承継の対象となる会社)からの配当で、銀行の借入返済に充当するという方法が多く用いられており、これが一般的に持株会社スキームと言われているものです。

ここで、問題になるのは、持株会社が借入の返済をすることができるのは、事業会社本体の業績次第ということになります。事業会社本体と持株会社は実態的には一つの会社とはいえ、銀行からみると直接の融資先である持株会社の実力では、返済ができないということになり、非常に不安定な状況の融資ということです。

そこで、銀行は、この不安定な状況を回避するために、その融資の形態を、コべナンツ(covenants)条項付融資とすることがあります。
このコベナンツ(covenants)とは、融資契約について、様々な制限条項を定めたものです。
シンジケートローンでは一般的に用いられている方法ですので、ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、制限条項に違反すると、資金の全額返済等のペナルティが課されることがあります。
つまり、銀行がこの融資方法においてリスクを回避しようとしているということです。

そして、このコベナンツ条項付融資には、組成手数料と弁護士費用がかかります。一般的には、高いと感じる経営者が多いようです。
もちろん、この費用が高いと考えるかどうかは、経営者次第ですが、重要なことは、銀行として返済を確保するために通常の融資よりも条件を付与しているということで、それはつまり、企業にとってもスムーズな借入、返済の方法ではないということです。

事業会社本体は赤字であっても、持株会社の借入返済のために、配当をしなければならない状況をイメージされれば、ご理解いただけると思います。
収入がない、空(から)の箱である持株会社が借入して返済することは、決して当たり前のことではないのです。

持株会社が事業を行うことの検討

そこで、持株会社が事業を営み自社の収益で銀行借入を返済する方法をご検討される場合があります。
持株会社のキャッシュフローで返済が可能であれば、借入、返済の面では良い方法だと言えます。

しかし、その企業の経営を俯瞰してみた場合、持株会社の事業は、事業会社本体で行わずに持株会社で行うことが良いのでしょうか。
未上場企業の場合、持株会社の事業を行う担当者は、事業会社本体と兼務することが多く、実態的にはひとつの会社の事業部門として運営が行われるというイメージかと思います。

しかし、あくまでも法人は別人格、別の存在ですので、会社の資金繰、借入、決算などは別々に行うことになります。

上場企業のように、持株会社として複数の会社を管理統括したり、グループ各社に共通な総務・経理などの業務を持株会社に集中して、事務合理化を図る場合などでは、メリットがある場合がありますが、未上場企業でそれほど規模の大きくない会社の場合に、別々に事業を行うメリットはあまりないと思います。

そして、後継者は、本来、事業会社本体1社を承継するところ、形式的とはいえ2社を承継することになります。
一般的に、持株会社スキームを検討する時には、現社長と専門家なので、後継者はそのスキームの意味をあまり意味を理解していないことが多く、複雑になった組織を経営することは後継者にとって、それほどメリットを感じられるものではありません。

この組織の複雑さを回避するために、後継者の代で、再び会社を合併することがありますが、そのような面倒な思いをしてまで、自社株の受け皿という意味の持株会社を作る必要があるのでしょうか。
この点を、ぜひご検討いただきたいと思います。

まとめ

  • 持株会社の資金調達と返済は簡単ではなく、また借入に関して、費用が発
    生することがある
  • 持株の受け皿という理由で持株会社を設立し、組織が複雑になることのメリット・デメリットを考える必要がある。

次回は、持株会社に関する課税関係と持株会社以外の自社株の受け皿についても検討します。

持株会社の活用についてのご相談は、弊社websiteのお問い合わせページからご連絡ください。

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