自社株の承継に信託を活用する | 株式会社クロスリンク・アドバイザリー

コラム

2021/10/12

自社株の承継に信託を活用する

自社株が経営者の相続財産であることの問題点

事業承継対策を考える時、後継者の選択が最も重要ですが、後継者が安定した経営をするためには、株主総会を自分の考え通りに可決できるように、自社株の一定以上のシェアが必要になります。

そこで社長は、ご自身が決めた後継者に自社株を渡すことができれば問題ないのですが、自社株も相続財産の一部であるため、後継者以外の他の相続人が存在した場合には、必ずしも社長の思い通りに自社株を渡すことはできません。

例えば、社長の子供2名とも会社に入社していて、社長としては後継者を決めていながらも、自社株をまだ渡していない状況の場合、相続が発生すると、子供たちの間で遺産分割争いとなる可能性もあります。


つまり、兄弟どちらも社長になることを希望すると、自社株の争奪戦になるということです。
兄弟の話し合いの結果、やむなく最終的に兄弟で各々が1/2の自社株を相続するという結論に至った場合、今度は兄弟で社長のイスを争うことになります。
会社の社長が決められないという状況が続くと、経営の空白期間が生まれる可能性があり、好ましくありません。
自社株の相続をめぐる裁判は決して珍しくなく、こういう事例がたくさんありますので、事前の対策が重要です。

信託契約による対策

そこで対策方法のひとつとして、信託契約をご説明します。
未上場企業の自社株を信託する商品は、銀行によって、「自社株承継信託」「事業承継信託」などの商品名がありますが、内容は、ほぼ似たようなもので、要するに社長が自社株を後継者に確実に渡せるように自社株を銀行に信託するというものです。

それでは、図解で、Aの信託期間中とBの信託終了時に分けてご説明いたします。


【信託期間中】

➀信託契約の締結 
 社長と銀行の間で信託契約を締結して、自社株を信託し、社長自身を受益者に指定します
②議決権の行使   
 銀行は、社長の指図に基づき議決権を行使します
③信託受益      
 会社からの配当金を銀行が受領した場合は、社長に交付します

【信託終了時:相続発生時】

④銀行に信託されていた自社株を、あらかじめ定めた後継者に交付します。

▶自社株は信託財産として、銀行に移転しており、社長に万が一の場合は、後継者にスムーズな自社株の移転が行わ れる
▶社長存命中は、ご自身で自社株を保有している時と同様に、議決権の行使が可能

自社株の信託のメリット・デメリット

【メリット】
・確実に後継者に自社株(支配権)を渡すことができる
・社長の死亡と同時に、議決権行使の指図権や受益権が移動するため、経営の空白期間が生じない
・後継者を定めつつ、社長が経営の実権を保持することができる。

信託の活用により、『後継者に自社株(支配権)を渡す』という最大の目標は達成することが可能です。

【デメリット】

・信託を設定すると、柔軟な変更は簡単ではない
・信託への理解が深まっていない(後継者は手続を理解できない可能性)
・事業承継対策のタイミングは、社長が死亡した時に限定されている
・納税猶予制度による贈与・相続の適用を受けられない
・遺留分侵害請求をされたときの対処が、法律に定められていない

デメリットをお読みいただくと、自社株を渡す相手を簡単に変更することができないことや、納税猶予制度の適用が受けられないこと、そして、遺留分侵害請求についての取り扱いが曖昧であるなど、デメリットも存在することがお分かりいただけると思います。

従って、自社株の信託をご利用いただくのは、後継者が明確になった段階で、さらに自社株を渡す方法については、納税猶予制度の適用を受けないという方針が決定した後が好ましいということです。

まとめ

自社株の信託は、後継者候補がもめる可能性がある場合には、かなり有効な方法であると言えます。
ただし、信託は日本ではポピュラーな方法ではないため、事業承継対策のアドバイスを行っている士業の方も詳しくない場合も多いものです。
信託商品について、詳しい専門家とお打ち合わせの上、メリット・デメリットをよくご理解いただき、自社にとって良い方法になる場合には、ご活用いただくことをお勧めします。

信託の活用を含めた事業承継対策について、詳しく知りたい方は、弊社サイトのお問い合わせページからご連絡ください。

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